亜米利加人が来た02

姫路城ガイド

こんなに暑くて歴史的建造物をエンジョイできるのか、海外旅行に行く習慣のない私にはもはや理解ができないほど知的探求に向いていない季節ですが、はるばる来られたからには楽しんでいただきたいですし、ぼーっと見ているだけよりは、人と話をすることによって暑さから気が紛れて熱中症対策になるのであれば、それだけでもお役に立てているのであれば、少なくとも私はボランティアガイドに今日も出かけるのであります。もちろんほかのメンバーはもっと崇高な志でガイドを行われておりますが。

さて珍しく最初に声をかけた夫婦が案内をお願いしてきました。ツアーの序盤、ろの門辺りですでに「火灯窓は豊臣家と関係があるのか」「左三つ巴紋はどこの家紋か」など、ぼーっとしていた私の頭に電気が走るような質問が飛び交います。しかも「ヒダリミツドモエ」と流暢な日本語で。

聞くとこの夫婦、どちらもscientistで、福岡であった会議に出席して、残り一週間を旅行しているとのことです。会議後に姫路で宿泊、そしてこの日は有馬温泉と兵庫県が喜びそうな旅程です。そしてご主人が大学で日本の歴史を勉強しており、今回の日本旅行では勉強したことを実際に見られるということで大いに息巻いていたわけです。これは暑さでぼーっとしているわけにはいきません。奥様はぼーっとなっておられましたが。

彼の質問の英語が聞き取れないとき、「I don’t understand your question」と言うと、日本語で「一階が焼ける、二階三階にいる人はどうする?」などと返ってくるので、非常に快適です。(何度聞いても相手の英語が分からない場合の申し訳なさと悔しさときたら…)姫路城では建物から屋根に出られる窓が三つあり、各階の屋根が連結して上階からでも地上に降りられるという、聞いたことがあるけど一度も使ったことがないこの説を初めて使い、make senseを得ることができました。

江戸期からバブル崩壊までの日本の歴史を勉強し、特にバブル以降も日本の経済には世界にないポテンシャルがあり、まだまだ日本はホープフルであると考えているこのご主人。技術やサービスなどほかの国には全くないものがたくさんあり、シンガポールに住んでいたときには多くのシンガポール人が日本人のファッションを真似し、日本語で店の名前を付けていたことを教えてくれました。それに対して私は、そういうこともうわさでは聞いているがこの国にいる人は自信をうしなっちゃってて、将来を悲観している人が多いと見事なネガティブ発言を。これが相手に手の内を見せずに、時期が来たら一気に勇猛果敢に試合を運ぶクレバーなやり方になるのかどうかは今後の日本人全体にかかっています。

こんなに文系文系していた会話ですが、ご主人はbioinformatics(生命情報学)を研究している科学者で、専門は豚。これが「ブッタ」と日本語で言おうとしてくれるからちょっとの間「ブッタのDNA解析」と認識し、「そんなことどうやってできるの!?」と声を荒げていましたが、豚のDNAならばまあやっている人はいるでしょう。彼らの住んでいるオクラホマ州は有数の農業州で、全米で一番大きな豚の研究施設にいるとのことでした。

コロナウイルスのウイルスは英語ではvirus。これがワイアーと聞こえて難渋したのですが、元々は「流れる」というニュアンスがあり、顕微鏡以前では「毒液」の意味だったよう。語源辞典では「ooze(にじみ出る、泥、発音はウーズ)」が関係があるとのこと。私はこのoozeは脚をすりむいて血と組織液がじゅくじゅくになっているときのイメージで覚えましたが、ここにワイアーとウーズとvirusがwの音から始まることが現れます。もちろんvirusはヴァイラスでv始まりですが、日本人が思うよりヨーロッパの言語ではvとwの違いが薄いのは想像できます。この辺の変遷を想像するのが楽しい特殊な人種もいるわけです。

それでoozeの項をくまなく読むと、出てきたのがwetでありwater。virusとwaterにまでさかのぼれたところで今回はよしとすることにします。

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