三浦しをん「風が強く吹いている」(新潮文庫)

 

読書案内に出ている、箱根駅伝の話、読んだ人が面白いって言う、アニメ化された、作者の名前はよく聞く…手にとってみたものの…分厚い(約670ページ)。数ページめくって、何の話か見えず、先はまだまだ遠い。ぽいっと元の位置に返す。別にこの本に限らないことであるが。それではこの書評がアナタの背中に風を強く吹かせて進ぜよう。

寛政大学4年、清瀬灰二(はいじ)は銭湯の帰り道に万引き犯の逃走に遭遇。自転車で追跡、犯人のスピードに長距離の資質を見出だした。犯人は同大学1年の蔵原走(かける)。聞けば下宿代を使い果たし宿無しの状態、強引に自分の下宿、竹青荘に入居させる。ここにはすでに9名の学生が住んでいた。

灰二は長距離走者。箱根を目指すため、密かに素質のありそうな学生をここに集め面倒を見ていた。走の加入により、竹青荘が陸上部の下宿であることを告げ、指導を始める。訳あって陸上から遠ざかった走をはじめ、各選手の生い立ち、性格、悩みが交錯し、練習は思い通りにいかず。陸上素人集団が箱根を目指すのは夢のまた夢のようであったが、灰二の箱根への強い想いが、成長途上のメンバーをうまくまとめ、励まし、ついに箱根の出場権をつかみとる。ここまで、物語の半分。

そんなこと実際にあり得ない!などと思うことなかれ。読者は箱根出場までの厳しい練習の間に全員の人となりを知ることになってきた。後半箱根駅伝編では、読書は流れるようなメンバーへの感情移入のリレーとなる。自転車で登り坂を上がった後、長い下りを味わうような、さまざまな読書経験の中でも異例の快感が待っている。そんな時間が来ることを前提に読み進めてみよう。小説が起こせる可能性を爽やかに感じさせる名作なのである。さて、書評は風を起こせたか?

Follow me!