三浦しをん「船を編む」(光文社)


2011年9月リリース後、映画化、アニメ化、本屋大賞受賞、と華々しい評価をすでに収め、改めて紹介する気が全く引けるこの作品。あえてこの作品をするのは別の投稿で書くとしてここでは純粋に紹介をします。気になったら塾の本棚にありますので。

主人公の馬締(まじめ)光也は、玄武書房の営業部で肩身の狭い境遇を過ごしていた。彼の言語へのこだわりは後に辞書編纂の中心を担うことになるものだが、営業部なのにコミュニケーション下手、外見もパッとしないので同僚からも敬遠されている状態。物語は辞書編纂部が新たに作る辞書「大渡海」のための人員としてその馬締に白羽の矢を立てるところからコミカルに始まる。馬締は辞書編纂部の中心人物として年齢を重ね、言葉を通じて周囲との関係を構築していく。美しい女性と恋愛、結婚。大切な人々との別れも乗り越え、十数年をかけて一冊の辞書を完成させる、というあらすじ。

面白すぎてページをめくる手が止まらないのは私が保証するが、そこに描かれているのはフツーの中高生には近くて遠い辞書にまつわる話。開始3ページ目に「声」という言葉の語釈があり、「人や動物が、のどにある特殊器官を使って出す音」という説明に対し、「のどにある特殊器官」とは思わせぶりだと、「特殊」「器官」についてまた辞書を引く。娯楽小説なれど少し身構えてもらいたい。

スポーツや一時の恋愛をテーマにした話とは違い、辞書は作るのにウン十年かかる。よってスタートで27歳だった主人公はエンドで40を超える中年。独身時、他人の気に障っていた不器用なナイフでの赤鉛筆削りが、後半にはちゃんと鉛筆削りを使って他者との協調ができるようになっている。若いうちって変にこだわるもんですが、いつの間にかやめてますもんね。そんな主人公の成長が主題。馬締と香具矢の恋愛はそうは言ってもひとつの佳境であるが。

だがしかし、ある種特殊な主人公に対し、同僚の西岡や岸辺など、そこらへんにいそうな登場人物の精神的成長に読者はより感情を移入しやすいだろう。先輩女性にケーハクと一蹴される西岡や、女性向けファッション雑誌を作ってきた岸辺は、登場時には何とも目が当てられない人物像だが、やがて「真面目」というキーワードの下にそれぞれ普通の幸福を見つけ出していく。おお、だから主人公は「馬締」でしたか。

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